今日も仕事です。打合せが最近またもや多くなってきました。
本来なら私の師匠が大会委員長で招集号令がかかっていた日本労務学会に行きたかったのですが、東京で仕事なのでやむなし。ゼミの同期で参加する人にことづけて、今回は見送りにしました。残念。今日は、午前中は研修事務局で見ているだけなので、更新できる時間ができました。
10月の人事異動案は、今までならそんなに気合いを入れていませんでしたが、なぜか気合いの入った取り組みになってきたり、役員研修の企画、考課者研修のケーススタディと中身の検証、子会社案件での人事制度や規則面での関与など、本来暇な夏がやたら忙しい。それに面接も入っているので、余計に混乱している。昨日は特に忙しかった。激疲れでした。
本を読む暇もないというのは久々で、酒も飲んでいない。こんな余裕のない生活をしていてはいけないと思いつつ、やむを得ず仕事に走っている・・・・。やばい。
おもにMBAプログラムや論文執筆の過程で読んできた経営学と経済学の書籍、それと経営学を理解するために必須の哲学や社会学についての書籍を読み直しています。その時に読めなくて積読になっていた本も読み進めます。MBAを修了したものの、継続的に学ぶためには、何らかの強制力が必要です。そこで、硬軟織り交ぜてご紹介できればと思います。
2010年7月25日日曜日
科学革命の構造(クーン)
見事な夏風邪を引いてしまいました。
先週の火曜日ぐらいから咳が出て痰が絡むので、風邪かな、と思っていたら、木曜日ぐらいから頭が痛い。鼻水も出てくるし、これは完全に夏風邪です。仕事にはちゃんと行っていますが、なかなかきつい。本を読む気力はあまりありません・・・。
とはいえ、夏らしく、重くて暑い一冊を読みます。天牛堺書店の600円均一で見つけたKuhn, T., S.(1962) The Structure of Scientific Revolutions. Chicago: The University of Chicago Press. 邦訳 トーマス・クーン(1971)『科学革命の構造』中山茂 訳、みすず書房です。これも実は原著(英語版)が1084円とかなりお安いので、英語で読める人は英語がお勧めです。「パラダイム」の概念を確立した1冊といえばお分かり頂けると思います。
先週の火曜日ぐらいから咳が出て痰が絡むので、風邪かな、と思っていたら、木曜日ぐらいから頭が痛い。鼻水も出てくるし、これは完全に夏風邪です。仕事にはちゃんと行っていますが、なかなかきつい。本を読む気力はあまりありません・・・。
とはいえ、夏らしく、重くて暑い一冊を読みます。天牛堺書店の600円均一で見つけたKuhn, T., S.(1962) The Structure of Scientific Revolutions. Chicago: The University of Chicago Press. 邦訳 トーマス・クーン(1971)『科学革命の構造』中山茂 訳、みすず書房です。これも実は原著(英語版)が1084円とかなりお安いので、英語で読める人は英語がお勧めです。「パラダイム」の概念を確立した1冊といえばお分かり頂けると思います。
2010年7月24日土曜日
Blackberry
長らく会社に懇願していたBlackberryがやっと会社から支給された。といっても、最新型のBold 9700ではなく、Bold 9000の在庫。ニューモデルを期待していたが、流石うちの会社、在庫で間に合わせてきた。それでも長らく申請していて、やっとOKになったのでうれしい。
海外や営業で必要な人たち(主に海外取引が多い部署)には、数年前からBlackberryが支給されていましたが、私は管理部門にいることから、なかなか許可が下りなかった。会社はLotus Notesなので、会社以外でメールを見る方法は、PCからだとDominoか、携帯でも見ることは可能だった。長らく携帯のシステムでメールを朝に見ながら返事を考えて通勤して、朝に全部処理していたが、この前携帯電話の管理をしている総務から「seatakuさんは携帯のパケット使い過ぎなんですが、なにか変なことをしていませんか?」という不快極まりない問い合わせを受けました。パケホーダイではないらしく、パケットの使用状況に応じてプランをこまめに変更するらしい。携帯でパケットを使うのは、メール閲覧、新幹線予約(EX)、飛行機国内線予約(JAL, ANA)ぐらいで、Twitterは原則としてケータイからはしないし、Blogの更新もケータイは関係ない。ケータイでプライベートの電話すらほとんどしない(プライベートは公衆電話からする)ぐらいにケータイを使わないように努力しているのに、会社からそんなことを言われて頭にきたので、システム担当に「総務からパケット使いすぎと言われた。Blackberryならどのぐらいかかるの?」と尋ねると、初期費用以外では総務のパケット代よりも相当に安い。「総務から使い過ぎと言われているので、支給してくれ」と談判して、支給の運びとなりました。確かにメールが人よりも多いので、申請して許可が出たのだと思いますが・・・・。
Blackberryですが、もう手放せません!
iPhoneは、確かにプライベート用にはよいと思いますが、仕事で使うならBlackberryでしょう。会社のメーラーがLotus Notesで、Blackberryにほとんどリアルタイムでメールが同期され、バイブレーションで知らせてくれます。また、同期しないフォルダーを作っておけば、Blackberryには流れてこないので、会社の伝票の確認メールなどは同期しないように設定していることで、必要なメールだけが同期される。しかも、カレンダー(予定表)やタスク(To doリスト)も同様にリアルで同期されるので、スケジュール帳が必要なくなった。こんなに便利だとは思いもしませんでした。
QWERTYキーを装備していて、キーのクリック感がよいので、小さいキーでも楽に打てる。iPhoneも試しましたが、キーでない分打ちにくかったので、この点でも気に入っています。友人のiPhoneのブラウザでDominoを表示してメールを試したが、非常に使いにくいし、そもそも入ったメールを知らせてはくれない。その点ではBlackberryは満点です。キーがよいので、Twitterも打ちやすくなっています。しかも、WiFiを実装しているので、家ではもっぱら普通にWiFi、そとでもYahooとDocomoのLANサービスに個人的に加入しているので、パケット代も会社にブウブウ言われることもないと思うと、うれしい気分です。
ITの進歩で仕事がどこでもできるのはありがたいが、逆にどこでも仕事をさせられているので困るような気にもなります。会社の支給品ですが、できるだけたくさんの機能を使い尽くしたいと思います。
海外や営業で必要な人たち(主に海外取引が多い部署)には、数年前からBlackberryが支給されていましたが、私は管理部門にいることから、なかなか許可が下りなかった。会社はLotus Notesなので、会社以外でメールを見る方法は、PCからだとDominoか、携帯でも見ることは可能だった。長らく携帯のシステムでメールを朝に見ながら返事を考えて通勤して、朝に全部処理していたが、この前携帯電話の管理をしている総務から「seatakuさんは携帯のパケット使い過ぎなんですが、なにか変なことをしていませんか?」という不快極まりない問い合わせを受けました。パケホーダイではないらしく、パケットの使用状況に応じてプランをこまめに変更するらしい。携帯でパケットを使うのは、メール閲覧、新幹線予約(EX)、飛行機国内線予約(JAL, ANA)ぐらいで、Twitterは原則としてケータイからはしないし、Blogの更新もケータイは関係ない。ケータイでプライベートの電話すらほとんどしない(プライベートは公衆電話からする)ぐらいにケータイを使わないように努力しているのに、会社からそんなことを言われて頭にきたので、システム担当に「総務からパケット使いすぎと言われた。Blackberryならどのぐらいかかるの?」と尋ねると、初期費用以外では総務のパケット代よりも相当に安い。「総務から使い過ぎと言われているので、支給してくれ」と談判して、支給の運びとなりました。確かにメールが人よりも多いので、申請して許可が出たのだと思いますが・・・・。
Blackberryですが、もう手放せません!
iPhoneは、確かにプライベート用にはよいと思いますが、仕事で使うならBlackberryでしょう。会社のメーラーがLotus Notesで、Blackberryにほとんどリアルタイムでメールが同期され、バイブレーションで知らせてくれます。また、同期しないフォルダーを作っておけば、Blackberryには流れてこないので、会社の伝票の確認メールなどは同期しないように設定していることで、必要なメールだけが同期される。しかも、カレンダー(予定表)やタスク(To doリスト)も同様にリアルで同期されるので、スケジュール帳が必要なくなった。こんなに便利だとは思いもしませんでした。
QWERTYキーを装備していて、キーのクリック感がよいので、小さいキーでも楽に打てる。iPhoneも試しましたが、キーでない分打ちにくかったので、この点でも気に入っています。友人のiPhoneのブラウザでDominoを表示してメールを試したが、非常に使いにくいし、そもそも入ったメールを知らせてはくれない。その点ではBlackberryは満点です。キーがよいので、Twitterも打ちやすくなっています。しかも、WiFiを実装しているので、家ではもっぱら普通にWiFi、そとでもYahooとDocomoのLANサービスに個人的に加入しているので、パケット代も会社にブウブウ言われることもないと思うと、うれしい気分です。
ITの進歩で仕事がどこでもできるのはありがたいが、逆にどこでも仕事をさせられているので困るような気にもなります。会社の支給品ですが、できるだけたくさんの機能を使い尽くしたいと思います。
2010年7月17日土曜日
ビジネス・エコノミクス(伊藤) 読了しました
105円の本としては最高、1890円でも上出来です。
ビジネスエコノミクスの基本的な書籍としては、幅広い読者がミクロ経済学の基礎を学ぶのに最適な1冊と思います。MBAでビジネスエコノミクスを本格的にやった方々には少し物足りないかもしれませんが、私はこの本を通読してもう一度ビジネスエコノミクスを勉強しようと思った次第です。
カバーされている内容は、基礎的なところから高度なところまで幅広いが、読みやすいがゆえにストレスを感じない。需要曲線と価格弾力性、市場と組織の経済学、エージェンシー理論とモラルハザード、逆選択、情報の非対称性、囚人のディレンマ、ゲームの繰り返しと協調、ホールドアップ問題、ポーターの競争戦略といった、民間企業の管理職(ある程度の決定権を与えられるポジション)の基礎素養としては必要かつ十分な理論を網羅している。それらは、すべて代表的な先行研究に裏打ちされた形で提示されている。そして、ケースが日本のケースなので、親しみを持ちながら理解することが可能である。
日本のビジネスパーソンが世界で戦ううえで必要な基礎素養の一つに、こういうビジネスエコノミクスがあると思う。はっきり言うと、日本のビジネスパーソンは、自分の仕事の領域は非常によく、深く勉強しているので、たとえば、自分が売ろうとしている商品や対抗商品についての説明力は群を抜いていると思う。しかし、それ以外の話題になると甚だ怪しい。理論を「机上の空論」としてバカにしているがゆえに、説明力が足りないと思う。
たとえば、Hirschman, A. O. (1970) Exit, Voice, and Loyalty: Response to Decline in Firms, Organizations and States. Cambridge, MA: Harvard University Press. 邦訳 アルバート・O・ハーシュマン『離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応』矢野修一 訳、ミネルヴァ書房なんて本は、頭のよさを試される本だが、この骨太な理論で大方のことは説明がつく。こういう素養があれば、海外のビジネスパーソンと渡り合う時にも苦労はしない。彼らは、そういったモデルをよく知っているので、説明力が高い。我々もそういったことを理解したい。こういう本を読んで理解するのは難儀なことだが、ビジネスエコノミクスにはこういう理論への言及もしっかりとされている(pp102-106)。各章の末尾の参考文献もしっかりと厳選されていて、次のステップに進みやすくしているのはよいことだと思う。
ただ、様々な理論をケースを加えて読みやすくして、しかも350ページ程度に収めているので、どうしても表面的な紹介になってしまっている。多忙なビジネスパーソンがサクッと読めて理解できる点では特筆できるが。もう少し学びたいと感じる方は、 丸山雅祥(2005)『経営の経済学』有斐閣に進んではいかがでしょうか。『ビジネスエコノミクス』と『経営の経済学』を比較すると、どちらがよいかではなく、ターゲットとする読者層が明らかに違うと考えてよいと思う。『ビジネスエコノミクス』はより幅広く、経済学の知識があまりなく、しかも今までそういう書物に触れてこなかった層を対象としていて、『経営の経済学』は、マネジメントや経済学への興味が高く、そういう書物には触れてきたが経済学の知識がない、つまりビジネスリテラシーが高い層をターゲットとしている。どちらも非常に良い本なので、どちらも手にとって、自分の1冊を読みこんでほしい。
伊藤元重(2004)『ビジネス・エコノミクス』日本経済新聞社
目次
序章 ビジネス・エコノミクスとは
第2章 価格戦略と儲けの仕組み
第3章 価格からビジネスの構造が見える
第4章 市場メカニズムを活用する
第5章 エイジェンシーの理論―モラルハザードと逆選択
第6章 ビジネスは「ゲーム」だ
第7章 経済学で競争戦略を解剖する
第8章 デジタル革命は何を変えたか
第9章 ビジネスは世界に広がる
終章 ビジネス環境は変わり続ける
索引
ビジネスエコノミクスの基本的な書籍としては、幅広い読者がミクロ経済学の基礎を学ぶのに最適な1冊と思います。MBAでビジネスエコノミクスを本格的にやった方々には少し物足りないかもしれませんが、私はこの本を通読してもう一度ビジネスエコノミクスを勉強しようと思った次第です。
カバーされている内容は、基礎的なところから高度なところまで幅広いが、読みやすいがゆえにストレスを感じない。需要曲線と価格弾力性、市場と組織の経済学、エージェンシー理論とモラルハザード、逆選択、情報の非対称性、囚人のディレンマ、ゲームの繰り返しと協調、ホールドアップ問題、ポーターの競争戦略といった、民間企業の管理職(ある程度の決定権を与えられるポジション)の基礎素養としては必要かつ十分な理論を網羅している。それらは、すべて代表的な先行研究に裏打ちされた形で提示されている。そして、ケースが日本のケースなので、親しみを持ちながら理解することが可能である。
日本のビジネスパーソンが世界で戦ううえで必要な基礎素養の一つに、こういうビジネスエコノミクスがあると思う。はっきり言うと、日本のビジネスパーソンは、自分の仕事の領域は非常によく、深く勉強しているので、たとえば、自分が売ろうとしている商品や対抗商品についての説明力は群を抜いていると思う。しかし、それ以外の話題になると甚だ怪しい。理論を「机上の空論」としてバカにしているがゆえに、説明力が足りないと思う。
たとえば、Hirschman, A. O. (1970) Exit, Voice, and Loyalty: Response to Decline in Firms, Organizations and States. Cambridge, MA: Harvard University Press. 邦訳 アルバート・O・ハーシュマン『離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応』矢野修一 訳、ミネルヴァ書房なんて本は、頭のよさを試される本だが、この骨太な理論で大方のことは説明がつく。こういう素養があれば、海外のビジネスパーソンと渡り合う時にも苦労はしない。彼らは、そういったモデルをよく知っているので、説明力が高い。我々もそういったことを理解したい。こういう本を読んで理解するのは難儀なことだが、ビジネスエコノミクスにはこういう理論への言及もしっかりとされている(pp102-106)。各章の末尾の参考文献もしっかりと厳選されていて、次のステップに進みやすくしているのはよいことだと思う。
ただ、様々な理論をケースを加えて読みやすくして、しかも350ページ程度に収めているので、どうしても表面的な紹介になってしまっている。多忙なビジネスパーソンがサクッと読めて理解できる点では特筆できるが。もう少し学びたいと感じる方は、 丸山雅祥(2005)『経営の経済学』有斐閣に進んではいかがでしょうか。『ビジネスエコノミクス』と『経営の経済学』を比較すると、どちらがよいかではなく、ターゲットとする読者層が明らかに違うと考えてよいと思う。『ビジネスエコノミクス』はより幅広く、経済学の知識があまりなく、しかも今までそういう書物に触れてこなかった層を対象としていて、『経営の経済学』は、マネジメントや経済学への興味が高く、そういう書物には触れてきたが経済学の知識がない、つまりビジネスリテラシーが高い層をターゲットとしている。どちらも非常に良い本なので、どちらも手にとって、自分の1冊を読みこんでほしい。
伊藤元重(2004)『ビジネス・エコノミクス』日本経済新聞社
目次
序章 ビジネス・エコノミクスとは
第2章 価格戦略と儲けの仕組み
第3章 価格からビジネスの構造が見える
第4章 市場メカニズムを活用する
第5章 エイジェンシーの理論―モラルハザードと逆選択
第6章 ビジネスは「ゲーム」だ
第7章 経済学で競争戦略を解剖する
第8章 デジタル革命は何を変えたか
第9章 ビジネスは世界に広がる
終章 ビジネス環境は変わり続ける
索引
2010年7月11日日曜日
ビジネス・エコノミクス(伊藤)
ブックオフで105円だった伊藤元重(2004)『ビジネス・エコノミクス』日本経済新聞社を読んでみます。
ビジネスエコノミクスでは、この本が分かりやすいとMBA時代の友人が推薦していました。
ビジネスエコノミクスは、MBA時代に履修しました。その時は丸山先生の丸山雅祥(2005)『経営の経済学』有斐閣がテキストでした。これと比較してどちらがよいか、考えながら読んでみます。
ビジネスエコノミクスでは、この本が分かりやすいとMBA時代の友人が推薦していました。
ビジネスエコノミクスは、MBA時代に履修しました。その時は丸山先生の丸山雅祥(2005)『経営の経済学』有斐閣がテキストでした。これと比較してどちらがよいか、考えながら読んでみます。
これからの「正義」の話をしよう(サンデル) 読了しました
読み終わりました。思考を鍛えるために、大学学部生に読んでほしい1冊です。
本の内容は、NHK「ハーバード白熱教室」の講義録で、ほぼその内容を敷衍する形で進んでいます。放送をご覧になったかたはより深く理解が進むと思います。残念ながらNHKは一部しか見ることはできませんが、英語のオリジナル(Justice with Michael Sandel)であれば、すべての回を見ることができます。ただ、学生とのインタラクションによって、議論が深まって素晴らしい仕上がりの講義になっているのですが、講義録にはそのインタラクションは入っていません(当然ですね)。
ベンサムとミルの功利主義、ノージックのリバタリアニズム、市場と倫理、カントの「道徳形而上学原論」から自由な選択と動機、ロールズの「正義論」から平等と正義、アリストテレスの「ニコマコス倫理学」「政治学」から目的因(テロス)など、西洋法哲学の歴史を俯瞰しながら様々なケースを用いて、平易に説明していく。救命ボートのカニバリズム、煙草会社の出した肺がんの便益、フォードの爆発するガソリンタンクの補修費と安全性向上の便益、マイケルジョーダンのチケット、徴兵制・志願兵・傭兵、ビルとモニカ、アファーマティブアクション、妊娠中絶をめぐる議論、同性婚など、アメリカ人であればいやでも直面する身近な問題に、哲学の理論との接点をうまく見つけて説明している。
私は、イギリスとアメリカに長く駐在していたこともあって、特にビルとモニカの問題についてはアメリカでその時代の空気を吸って身近な問題として理解できるし、イラク侵攻の日にアメリカを去った人間として、イラク侵攻前の張りつめた空気のなかで徴兵制と志願兵の問題が語られていたことも十分に理解しているので、例が非常に適切であると感じられた。このように豊富なアナロジーを提示しながら教えていく手法は、非常に効果的と感じる。
最近、グローバル人材をどのようにして育成するかといった議論が盛んである。世界で活躍するためには、英語のコミュニケーション(こういう場合はOralな部分を指すことが大部分)が重要である、といった議論も盛んである。しかし、様々な欧米人と渡り合ってきた経験からいうと、英語も大事だが、それよりも重要なのは、プラトン・アリストテレスに始まる哲学や聖書への理解である。それには大学の一般教養で行われている教育が非常に有用であると改めて感じる。欧米人の思考回路は、西洋哲学とキリスト教に裏打ちされている。アメリカ人と同じ空気を吸うことはできなくても、思考回路の元は幸いにも日本語で勉強できる。英語が上手なことはいいことだが、英語が上手なだけでその思考回路に迫っていなければ、彼らとの交渉で「なぜ」こういう結論に行きつくのか、という深いところは理解できないと思う。
この本が、そういう基礎素養を身につけようとする人々のきっかけとなればよいと思う。
Sandel, M.(2009) Justice: What's the Right Thing to Do? New York: Farrar, Strauss & Giroux. 邦訳 マイケル・サンデル(2010)『これからの「正義」の話をしよう―今を生き延びるための哲学』鬼澤忍 訳、早川書房。
目次
第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理―功利主義
第3章 私は私のものか?-リバタリアニズム(自由至上主義)
第4章 雇われ助っ人―市場と倫理
第5章 重要なのは動機―イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論―ジョン・ロールズ
第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか―アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か―忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善
謝辞
原注
(訳者のまえがきやあとがきが一切ないのは非常に好感が持てるやり方です!)
本の内容は、NHK「ハーバード白熱教室」の講義録で、ほぼその内容を敷衍する形で進んでいます。放送をご覧になったかたはより深く理解が進むと思います。残念ながらNHKは一部しか見ることはできませんが、英語のオリジナル(Justice with Michael Sandel)であれば、すべての回を見ることができます。ただ、学生とのインタラクションによって、議論が深まって素晴らしい仕上がりの講義になっているのですが、講義録にはそのインタラクションは入っていません(当然ですね)。
ベンサムとミルの功利主義、ノージックのリバタリアニズム、市場と倫理、カントの「道徳形而上学原論」から自由な選択と動機、ロールズの「正義論」から平等と正義、アリストテレスの「ニコマコス倫理学」「政治学」から目的因(テロス)など、西洋法哲学の歴史を俯瞰しながら様々なケースを用いて、平易に説明していく。救命ボートのカニバリズム、煙草会社の出した肺がんの便益、フォードの爆発するガソリンタンクの補修費と安全性向上の便益、マイケルジョーダンのチケット、徴兵制・志願兵・傭兵、ビルとモニカ、アファーマティブアクション、妊娠中絶をめぐる議論、同性婚など、アメリカ人であればいやでも直面する身近な問題に、哲学の理論との接点をうまく見つけて説明している。
私は、イギリスとアメリカに長く駐在していたこともあって、特にビルとモニカの問題についてはアメリカでその時代の空気を吸って身近な問題として理解できるし、イラク侵攻の日にアメリカを去った人間として、イラク侵攻前の張りつめた空気のなかで徴兵制と志願兵の問題が語られていたことも十分に理解しているので、例が非常に適切であると感じられた。このように豊富なアナロジーを提示しながら教えていく手法は、非常に効果的と感じる。
最近、グローバル人材をどのようにして育成するかといった議論が盛んである。世界で活躍するためには、英語のコミュニケーション(こういう場合はOralな部分を指すことが大部分)が重要である、といった議論も盛んである。しかし、様々な欧米人と渡り合ってきた経験からいうと、英語も大事だが、それよりも重要なのは、プラトン・アリストテレスに始まる哲学や聖書への理解である。それには大学の一般教養で行われている教育が非常に有用であると改めて感じる。欧米人の思考回路は、西洋哲学とキリスト教に裏打ちされている。アメリカ人と同じ空気を吸うことはできなくても、思考回路の元は幸いにも日本語で勉強できる。英語が上手なことはいいことだが、英語が上手なだけでその思考回路に迫っていなければ、彼らとの交渉で「なぜ」こういう結論に行きつくのか、という深いところは理解できないと思う。
この本が、そういう基礎素養を身につけようとする人々のきっかけとなればよいと思う。
Sandel, M.(2009) Justice: What's the Right Thing to Do? New York: Farrar, Strauss & Giroux. 邦訳 マイケル・サンデル(2010)『これからの「正義」の話をしよう―今を生き延びるための哲学』鬼澤忍 訳、早川書房。
目次
第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理―功利主義
第3章 私は私のものか?-リバタリアニズム(自由至上主義)
第4章 雇われ助っ人―市場と倫理
第5章 重要なのは動機―イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論―ジョン・ロールズ
第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか―アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か―忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善
謝辞
原注
(訳者のまえがきやあとがきが一切ないのは非常に好感が持てるやり方です!)
2010年7月4日日曜日
2010年7月3日土曜日
これからの「正義」の話をしよう(サンデル)
NHK「ハーバード白熱教室」が終了しました。英語のオリジナル(Justice with Michael Sandel)であれば、すべての回を見ることができますので、ぜひご覧ください。iTuneでもあったと思います。
ハーバードはアメリカ最高峰の一つですので、このレベルの授業がすべてのアメリカの大学で行われているとはいえないと思いますが、あれだけの教室(というかホールです)に集まったおそらく1000名を超える学生を相手に、ソクラテス問答法に近い授業が展開されているのは、驚きを超えて感動です。一人で、しかも学生との距離がある空間の中で、インタラクティブに授業を展開する力量は、素晴らしいの一言でした。私も会社で研修講師をすることがあり、この授業の進め方は非常に参考になります。
神戸MBAでも海外で教鞭をとられたり学位を取られた先生は、こういう感じの授業の進め方をされます。黙っているとどんどん指名され、それを機に議論が始まっていく。サンデル先生のようにはいかないまでも、70名の学生(しかも全員海千山千の社会人)を前に、ぐいぐいと授業を進めていく力量ある先生方が多く、神戸MBAで学ぶよさになっていると思います。
今回は、出版初日に購入して、積読状態だったSandel, M.(2009) Justice: What's the Right Thing to Do? New York: Farrar, Strauss & Giroux. 邦訳 マイケル・サンデル(2010)『これからの「正義」の話をしよう―今を生き延びるための哲学』鬼澤忍 訳、早川書房。を読みます。Penguinのペーパーバックが安いので、英語で読める方は、こちらがよいと思います。
NHKを最初からご覧になっていない方は、英語で全部の回を一度見てから読むと分かりやすいと思います。
ハーバードはアメリカ最高峰の一つですので、このレベルの授業がすべてのアメリカの大学で行われているとはいえないと思いますが、あれだけの教室(というかホールです)に集まったおそらく1000名を超える学生を相手に、ソクラテス問答法に近い授業が展開されているのは、驚きを超えて感動です。一人で、しかも学生との距離がある空間の中で、インタラクティブに授業を展開する力量は、素晴らしいの一言でした。私も会社で研修講師をすることがあり、この授業の進め方は非常に参考になります。
神戸MBAでも海外で教鞭をとられたり学位を取られた先生は、こういう感じの授業の進め方をされます。黙っているとどんどん指名され、それを機に議論が始まっていく。サンデル先生のようにはいかないまでも、70名の学生(しかも全員海千山千の社会人)を前に、ぐいぐいと授業を進めていく力量ある先生方が多く、神戸MBAで学ぶよさになっていると思います。
今回は、出版初日に購入して、積読状態だったSandel, M.(2009) Justice: What's the Right Thing to Do? New York: Farrar, Strauss & Giroux. 邦訳 マイケル・サンデル(2010)『これからの「正義」の話をしよう―今を生き延びるための哲学』鬼澤忍 訳、早川書房。を読みます。Penguinのペーパーバックが安いので、英語で読める方は、こちらがよいと思います。
NHKを最初からご覧になっていない方は、英語で全部の回を一度見てから読むと分かりやすいと思います。
2010年7月2日金曜日
流れを経営する(野中・遠山・平田) 読了しました
いや~、なかなかのものでした。
しかし楠木建(2010)『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』東洋経済新報社のほうが読み物としては優れている。楠木先生のタッチが軽妙で、普通のビジネスマンに一気読みさせるだけの筆力を感じる。ケースも適切で、理論を毛嫌いする人々にも受けている。弊社でもじわじわ拡大中です。
野中先生の「哲学」が好きな人(私もその一人)にとっては、野中郁次郎、竹内弘高(1996)『知的創造企業』(梅本勝博訳)東洋経済新報社を一段とブラッシュアップしてケースを最新にした書と思えば間違いはないと思う。
野中先生の世界的成果であるSECIモデルについて、つまり暗黙知(主観)と形式知(客観)の2つの次元の相互交換が継続的に行われることによって知識が生成され変化し続けることのモデル化について広く議論される。そのなかでも、ニコマコス倫理学で出てきた「エピステーメ(普遍の真理)」「テクネ(実用的な知識・スキル」、そして「フロネシス(知的美徳・実践的知恵)」のなかで、とりわけフロネシスが重要であることを説く。フロネシスは「真・善・美の主観的感覚に基づく判断基準」「共通善に関する価値判断」である。「よい車」の例をあげて、客観的(エピステーメー的)にはよい車というのは普遍的真理ではなく、技術的(テクネ的)にいくら技術的に優れた車を作り出しても、それは主観的(フロネシス的)に「よい車」であるとは限らない。だから、「よい車」の定義は主観的な価値判断であり、常に文脈や当事者に左右される。フロネシスには絶対的な解はない。フロネシスは、科学理論にある「理由を知ること」、実戦的スキルの「手段を知ること」、そして実現するために「対象を知る」ことを綜合(シンセシス)する概念であるという。コンティンジェンシー理論のような、哲学のような。いずれにしろ、長年の社会人としての「肌感覚」は、フロネシス的なものが直感的に正しいことを示している。
就職活動中の学生さんから「御社の現場主義に惹かれました。僕も現場を訪問して泥臭く営業をしてみたいです」的な発言がよく見られます。現場を訪問すればそれで終わりと思っている薄っぺらさ。一度「それだけ現場に行きたいのだったら、うちに来る必要はなくて、どこかの工場ででも働けばいい」とまで言ったことがありますが、なぜ我々が商社なのに現場を訪ね、現場で経験を共有するのか、そこに理解がいたっていない学生が多い。
そういう学生は、本書の本田宗一郎の写真をよく見てほしい。コーナーを曲がるバイクの挙動を見るために這いつくばって観察する本田宗一郎(p109)。また、床に絵を描いて技術者に説明する本田宗一郎(p111)。これが現場主義をまさに体現している。単なる経験主義ではなく、現場を見るにしても現場により近い場所で観察する。それもとおりいっぺんのやり方ではなく。そして、一つ一つの現象が何を意味するのか深く考え、その場で動作とで自分の考えを伝えて実現していくというプロセスだと言いたいのだが、この写真(特にp109)がそれを雄弁に語ってくれている。すごいことだ。
理論だけでは頭でっかちになる。経験主義からは何も生まれない。だからフロネシス的なマネジメント、つまり実践的な綜合が求められていると言える。死に直面したソクラテスが死ぬことが真かどうかが問題ではなく、死に直面するソクラテスを前に自分が何をなすべきかが問題であり、よき実践が求められること、これこそが私の考える現場主義である。現場主義というペラペラな学生の言葉を強く、重くする思考を再び与えてくれた本書に感謝。
あとは、様々なケーススタディを取り上げ、流れの中でどのようにフロネシスな経営を実践しているかを紹介している。これも、ケースが新しく、非常にビビッドなので、読みやすいと思う。普通の読者は、第2部のケースだけでも相当勉強になると思う。経営学を志す人々や経営企画などで理論を正しく理解する意気込みのある人は第1部から入念に。
野中郁次郎、遠山亮子、平田透(2010)『流れを経営する―持続的イノベーション企業の動態理論』東洋経済新報社
目次
はじめに
第1部 理論編
第1章 知識について
第2章 知識創造の理論
第3章 プロセスモデルの構成要素
第4章 知識ベース企業のリーダーシップ
第5章 知識創造理論の物語的展開
第2部 企業事例編
第6章 理念・ビジョン
第7章 場と組織
第8章 対話と実践による事業展開
第9章 リーダーシップ
終章 マネジメントの卓越性を求めて
解説 研究開発のマネジメントからナレッジ・マネジメントへ
―戦略的マネジメントに対する知識創造理論の貢献(デイビッド・J・ティース)
参考文献
索引
注:
Nonaka, I., Toyama, R. & Hirata, T (2008) Managing Flow: A Theory of the Knowledge-Based Firm, New York: Palvrave MacMillan.の訳書として取り扱っていません。
しかし楠木建(2010)『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』東洋経済新報社のほうが読み物としては優れている。楠木先生のタッチが軽妙で、普通のビジネスマンに一気読みさせるだけの筆力を感じる。ケースも適切で、理論を毛嫌いする人々にも受けている。弊社でもじわじわ拡大中です。
野中先生の「哲学」が好きな人(私もその一人)にとっては、野中郁次郎、竹内弘高(1996)『知的創造企業』(梅本勝博訳)東洋経済新報社を一段とブラッシュアップしてケースを最新にした書と思えば間違いはないと思う。
野中先生の世界的成果であるSECIモデルについて、つまり暗黙知(主観)と形式知(客観)の2つの次元の相互交換が継続的に行われることによって知識が生成され変化し続けることのモデル化について広く議論される。そのなかでも、ニコマコス倫理学で出てきた「エピステーメ(普遍の真理)」「テクネ(実用的な知識・スキル」、そして「フロネシス(知的美徳・実践的知恵)」のなかで、とりわけフロネシスが重要であることを説く。フロネシスは「真・善・美の主観的感覚に基づく判断基準」「共通善に関する価値判断」である。「よい車」の例をあげて、客観的(エピステーメー的)にはよい車というのは普遍的真理ではなく、技術的(テクネ的)にいくら技術的に優れた車を作り出しても、それは主観的(フロネシス的)に「よい車」であるとは限らない。だから、「よい車」の定義は主観的な価値判断であり、常に文脈や当事者に左右される。フロネシスには絶対的な解はない。フロネシスは、科学理論にある「理由を知ること」、実戦的スキルの「手段を知ること」、そして実現するために「対象を知る」ことを綜合(シンセシス)する概念であるという。コンティンジェンシー理論のような、哲学のような。いずれにしろ、長年の社会人としての「肌感覚」は、フロネシス的なものが直感的に正しいことを示している。
就職活動中の学生さんから「御社の現場主義に惹かれました。僕も現場を訪問して泥臭く営業をしてみたいです」的な発言がよく見られます。現場を訪問すればそれで終わりと思っている薄っぺらさ。一度「それだけ現場に行きたいのだったら、うちに来る必要はなくて、どこかの工場ででも働けばいい」とまで言ったことがありますが、なぜ我々が商社なのに現場を訪ね、現場で経験を共有するのか、そこに理解がいたっていない学生が多い。
そういう学生は、本書の本田宗一郎の写真をよく見てほしい。コーナーを曲がるバイクの挙動を見るために這いつくばって観察する本田宗一郎(p109)。また、床に絵を描いて技術者に説明する本田宗一郎(p111)。これが現場主義をまさに体現している。単なる経験主義ではなく、現場を見るにしても現場により近い場所で観察する。それもとおりいっぺんのやり方ではなく。そして、一つ一つの現象が何を意味するのか深く考え、その場で動作とで自分の考えを伝えて実現していくというプロセスだと言いたいのだが、この写真(特にp109)がそれを雄弁に語ってくれている。すごいことだ。
理論だけでは頭でっかちになる。経験主義からは何も生まれない。だからフロネシス的なマネジメント、つまり実践的な綜合が求められていると言える。死に直面したソクラテスが死ぬことが真かどうかが問題ではなく、死に直面するソクラテスを前に自分が何をなすべきかが問題であり、よき実践が求められること、これこそが私の考える現場主義である。現場主義というペラペラな学生の言葉を強く、重くする思考を再び与えてくれた本書に感謝。
あとは、様々なケーススタディを取り上げ、流れの中でどのようにフロネシスな経営を実践しているかを紹介している。これも、ケースが新しく、非常にビビッドなので、読みやすいと思う。普通の読者は、第2部のケースだけでも相当勉強になると思う。経営学を志す人々や経営企画などで理論を正しく理解する意気込みのある人は第1部から入念に。
野中郁次郎、遠山亮子、平田透(2010)『流れを経営する―持続的イノベーション企業の動態理論』東洋経済新報社
目次
はじめに
第1部 理論編
第1章 知識について
第2章 知識創造の理論
第3章 プロセスモデルの構成要素
第4章 知識ベース企業のリーダーシップ
第5章 知識創造理論の物語的展開
第2部 企業事例編
第6章 理念・ビジョン
第7章 場と組織
第8章 対話と実践による事業展開
第9章 リーダーシップ
終章 マネジメントの卓越性を求めて
解説 研究開発のマネジメントからナレッジ・マネジメントへ
―戦略的マネジメントに対する知識創造理論の貢献(デイビッド・J・ティース)
参考文献
索引
注:
Nonaka, I., Toyama, R. & Hirata, T (2008) Managing Flow: A Theory of the Knowledge-Based Firm, New York: Palvrave MacMillan.の訳書として取り扱っていません。
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