2010年10月30日土曜日

チャーチル(河合)久々に読みました

高校生のころに読んだ本で、数少ない生き残り本が河合秀和(1979)『チャーチル:イギリス現代史と一人の人物』中央公論社です。大阪の家に帰って本棚をあさっていたら、これが出てきてつい読みふけってしまい、東京に戻る際に持ってきて新幹線の中でも読んでいました。奥付をみたら初版本でしたので、本当に長く残っているな、と感じます。なぜこんな本を高校のころに読んでいたのか全く意味不明。しかし、今読んでみると面白い。

イギリスの下院の議場が第二次世界大戦で被災して、まったく同じように再建させたのがチャーチルと言われている。ロンドンの駐在しているころに早朝から並んでQuestion Timeの傍聴をしたことがある。一度目は何気なしに行ったら入れず、二回目は気合いを入れて早朝から並んで傍聴。これが思ったより小さい。当時はMargaret ThatcherとNeil Kinnockの戦いでしたが、これが日本の党首討論とは比べ物にならない。チャーチルがこの本で言うように、「会話のスタイル」で議論が進む。野次の応酬もすごいし、とにかく埋め尽くされた議員と傍聴人。日本とは歴史が違います。貴族院のほうが豪華ですが、雰囲気は下院のほうが断然いい。イギリスに滞在される方で機会があればぜひ一度行かれることをお勧めします。貴族院ならそれほど並ばなくても入れるはずです(私も別の機会に行きました)。

チャーチルは、イギリスを代表する貴族の生まれで、ハーロー校に進んでいます。イギリスの上流階級製造学校ですな。普通ならここを出ればOxbridgeと言われるオックスフォードかケンブリッジに進むのでしょうが、サンドハースト陸軍士官学校に進んでいます。しかも浪人して。騎兵なので馬の費用も自弁するわけですから、まあ貴族なわけです。アメリカ人ならCelebrityとでもいうのでしょうが、こういう人をEstablishmentと言います。なり上がりではなく、日本には数少なくなった身分ですな。

キューバ、インド、南アフリカと勤務して父と同じ政治家の道を歩むわけです。日本でも二世議員が多く、玉石混交ですが、チャーチルなら立派な玉でしょう。1899年に保守党候補として落選、翌年に選挙区を変えて25歳の時に政治家としてデビューする。その後89歳で辞任するまで何度かの落選を経ていますが長い長い議員活動を行っているのである。しかも保守党と自由党(当時は労働党ではない)を2度も行き来し、政治家として生き延びていく。チャーチルの歴史を見ていると、今の民主党議員があまりにも小粒である。

チャーチルは25歳で初当選し、その5年後に自由党に移籍(これはイギリスでは自民党から民主党に移る以上の意味を持つ)、翌年植民次官、そして商務長官、35歳で内務大臣(日本で言う総務大臣=昔の日本の内務大臣ですから要職)、翌年海軍大臣に就任、作戦失敗で罷免され、軍需大臣、陸軍大臣、植民大臣、そして総選挙と補欠選挙で2度落選、保守党に鞍替えして当選し、すぐに大蔵大臣就任。内閣交代で大蔵大臣を辞任してから10年は大臣から干されて、第二次世界大戦開戦直後の1939年に海軍大臣として復帰、翌年念願の首相に上り詰める。日本が降伏する前の月、1945年7月に労働党政権が誕生し首相の座を降りる。1951年の総選挙で保守が第一党となり、76歳でふたたび首相になり、80歳になるまで首相だった。85歳で最後の総選挙を戦っている。76歳で首相になったのちは「老害」だったような気はするが、この政治への執念は、中曽根元首相に似たものを感じますね。

それと、イギリスの政治プロセスが非常に微妙なバランスをうまく制御できることが理解でき、今の民主党の政治家にこの本を読んでほしいと思うのである。議会では、「会話」が重んじられ、それが金鉄の重みを持つ。ロイドジョージ、チェンバレンといった大政治家がどのように議会と付き合い、その時々の問題に議会を通じてどのように解決しようとしたのか。今でも引きずるアルスターの問題や、イギリスを特徴づける社会保障といった問題にチャーチルはどのように対峙したのか。そして政治にマスコミはどのように影響を及ぼしているのか。

この本を読んで、今日の事業仕訳のテレビ報道を見ると、政治家の発言があまりにも軽いのに失望を覚えるのである。廃止だなんだといいながら、本当に廃止する気はないのである。同じ民主党の大臣・副大臣は制度を維持させようとし、事業仕訳で「廃止」と叫ぶ議員。茶番である。パフォーマンスの何物でもない。長妻元厚生労働大臣が仕訳に参加していた。自分が進めた事業が仕訳にかかっている。ミスター年金か何か知らないが、厚生労働大臣になって何が変わったのか。何をしたのか。何もしていない。評論家でしかない彼は万死に値する。日本の政治家を信頼できないのは、この軽さである。小沢のメンタリティも結局同じである。

言ったことを確実に実行する、実行できないことは言わない。これである。分からないことは調べる。不確実な憶測で物事を語らない。これに尽きる。

目次

序章 この時、この試練
第1章 樫の大樹
第2章 剣とペン
第3章 政治家修行
第4章 人民の権利
第5章 世界の危機
第6章 再び保守党へ
第7章 荒野の十年
第8章 もっとも輝けるとき
終章 勝利と悲劇
あとがき
年表

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