風邪引きもあって、今日は台風で外にも行けず、軽い本を探していたところ、吉田健一(2006)『酒肴酒』光文社がありました。吉田健一といえば吉田茂の息子。吉田茂といえば、親父の遺産をついで大金持ち。東京帝大法学部から外交官試験合格、同期はA級戦犯の廣田弘毅であるのはあまり知られていない。奥さんは牧野伸顕の娘。外交官としては中国を振り出しに当時大使としては最高峰だった駐英大使まで上り詰める。その後戦後まで要職に就かなかったのが吉田茂の幸運であったのはいうまでもなく、同期の廣田は首相を務めたことで絞首台の露と消えたのである。
さて、主役の吉田健一である。東京生まれだが、青島、パリ、ロンドン、天津と父とともに転任し、東京の戻った後ケンブリッジのキングスカレッジに留学したという、Establishmentである。戦前の日本にこういう経験をした人間はいない。たとえば、イケムで牡蠣を喰うような経験ができる日本人がいまでもいるだろうか。この組み合わせが最悪なのはよくわかるが、こんなことを書かれても普通は分からない。私はたまたまイケムを飲む体験ができた。とあるイギリスの名門企業の本社(この会社は数度のM&Aで跡形もなくなってしまった。ビルではなく、イギリス流のレンガ造りの素晴らしい建物でした)で昼食になり、そこのDiningでフルコースのランチョンになったときのデザートに出てきたイケム。ちなみにその時出た白は覚えていないが、赤は1977のCh. Margaux、ポートは1963のTaylor。D'Yquemも77だったと記憶する。私が今まで経験した最高の洋食がこれ。今後もこれ以上の食事をすることはないと思う。そして、戦前に現地でこの体験ができたのはそうそういないと思うのである。
自慢話になってしまったが、閑話休題、この本にはいまやない店のことも多く書いてあるが、たとえば、神戸のフロインドリーブやドンナロイア、別館牡丹園、それと私が好きなハイウエイ(トアロードにあったが移転した。移転前のほうがよかった)、あと凝ったところではハナワグリルなんかも出てきます。この本のよさは、本当にそこで食べている感じが出てくるところ。今やなき酒田の相馬屋の一夜の献立と酒の記述を読むだけで、「うまかったんやろな」と思えるのがすごいところ。文庫で安いので、一度読まれてみてはと思います。
目次
Ⅰ 舌鼓ところどころ
食べものあれこれ
舌鼓ところどころ
Ⅱ 酒肴酒
酒の話
解説 坂崎重盛
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