2010年5月15日土曜日

経営戦略の思考法(沼上)読み終わりました

一気に読みました。再読と言うのもありますが、この本が経営戦略を非常にうまく表現している書だからと思います。

第1部は、ちょっとミンツバーグの戦略サファリに近いところがありますが、非常によくまとまっていて、かつコンパクト。戦略計画、創発理論、ポジショニング、経営資源、ゲーム理論というように、戦略論を5つに大別して説明している。これだけでおそらく元が取れる。
第2部は、私にとっては第8章が素晴らしい。あるものをカテゴリーに分類することで説明しようとするカテゴリー適用法、1つのカテゴリーだけでなく複数の要因で説明しようとする要因列挙法、要因列挙法から因果関係を考察し、行為主体の意図・行為・相互作用結びつけることで解明するメカニズム解明法の思考法について説明されている。この辺は、『行為の経営学』の前半をもっとコンパクトにした感じで、しかも読みやすく仕上がっていると思う。
第3部で、メカニズム解明法に基づいて分析する手法を使って、顧客、競争の活用、シナジー、選択と集中、組織の暴走とを戦略と組織の相互作用としてとらえている。シナジーを正しく理解させ、深い部分で考えさせようとしている姿勢に感銘を受けた。当社においても、シナジーの理解がないままシナジー効果について語られているところに問題があると感じる。

先日『ストーリーとしての競争連略』を読み、改めて本書を読むと、本書はある程度の予備知識がある読者に適当で、ストーリーとしての競争戦略はもっと噛み砕いていることから、より広いオーディエンスを対象とできる。どちらの書も良書と思います。

沼上幹(2009)『経営戦略の思考法―時間展開・相互作用・ダイナミクス』日本経済新聞出版社。
目次
第1部 戦略思考の変遷―経営戦略論の知層形成
第1章 経営戦略に関する5つの考え方
第2章 戦略計画学派
第3章 創発戦略学派
第4章 ポジショニング・ビュー
第5章 リソース・ベースト・ビュー
第6章 ゲーム論的アプローチ
第7章 5つの戦略観がもたらす反省

第2部 戦略思考の解剖―メカニズムの解明
第8章 3つの思考法
第9章 戦略的思考法の具体例―思考法を身につけるための見本例の紹介

第3部 戦略思考の実践
第10章 顧客ダイナミクス
第11章 顧客の声に耳を傾けてはいけないとき
第12章 差別化競争の組織的基礎
第13章 競争を活用する戦略
第14章 先手の連鎖シナリオ
第15章 シナジーの崩壊メカニズム
第16章 選択と集中―創発的多角化戦略の問題点
第17章 組織暴走の理論
エピローグ 経験知と反省的学習
参考文献
人名索引
事項索引

7 件のコメント:

tt さんのコメント...

はじめまして。ttと申します。先週、検索サイト経由でこのブログを知り、興味深く読ませていただいております。
私も商社勤務で、20代後半、この4月より一橋MBAで学んでおりますSEITAKU様とは、商社勤務、国内MBAという共通点あり、僭越ながら親近感を覚え、このブログから色々と勉強させていただきたいと思います。
余談ですが、沼上先生の講義を夏期学期に受講させていただきました。「知識をいかに使うか」に重点が置かれ、戦略思考とは何か?の一端に触れることができ秀逸な授業でした。

seataku さんのコメント...

ttさんへ
こんなつなたいBlogを読んでいただいてありがとうございます。あまりコメントをチェックしないので、返事が遅くなりました。ごめんなさい。
あまりロクなことは書けませんが、ttさんのように読んでくださる方がおられるので、それを励みに書いていこうと思います。

商社勤務の国内MBAは少ないので、どうかこれからも末長くお願いします。私は神戸を修了しましたが、同期の中で商社勤務はいませんでした。それぐらい珍しい存在かもしれません。

沼上先生の講義を直に受けることができるとは、素晴らしい限りです。一流の研究者から学べることは数多いと思います。私は、神戸でアカデミックに浸って勉強したことが、今になって本当に役に立っています。

「よい理論ほど役立つものはない」 - Kurt Lewin

匿名 さんのコメント...

島根大学の客員教授である久保田邦親博士らが境界潤滑の原理をついに解明。名称は炭素結晶の競合モデル/CCSCモデル「通称、ナノダイヤモンド理論」は開発合金Xの高面圧摺動特性を説明できるだけでなく、その他の境界潤滑現象にかかわる広い説明が可能な本質的理論で、更なる機械の高性能化に展望が開かれたとする識者もある。幅広い分野に応用でき今後48Vハイブリッドエンジンのコンパクト化(ピストンピンなど)の開発指針となってゆくことも期待されている。

匿名 さんのコメント...

 それってポリプラスチックスのジュラコンを重要視してダイセルに転職した博士ですね。ダイセルもポリプラスチックスも長い繁栄を享受できるだろう。

匿名 さんのコメント...

元プロテリアル(旧日立金属)でSLD-MAGICという高性能特殊鋼を発明された方ですね。材料物理数学再武装も経営学分野でも脚光を浴びているようで。土木学会のたたら製鉄の記事読ませていただきました。Facebookがとても参考になりますね。

匿名 さんのコメント...

本質はアルゴリズム革命にあるのか。

匿名 さんのコメント...

時代の哲学や思想の根底というか底流に流れているもの、それはとても見出しにくい。
だからこそ経営者のアンケートNo.1であるように、本質を見抜く力というものが
経営トップやCEOには求められる。