今日4日と来週11日は、神戸大学大学院経営学研究科専門職学位課程現代経営学専攻、つまりMBAプログラムの専門職学位論文の審査会です。今日がマーケティング、管理会計、財務会計の方々、11日はHRM(人材マネジメント)系とOB(組織行動)系の方々のようです。審査を受ける方々皆さんにとって実りある1日であることを祈っています。
今でも、冷や汗ものだった昨年の審査会のことを思い出します。私の時の副査は、今年の3月に退官された坂下昭宣教授(現流通科学大学教授)、それと同じく退官された桑原哲也教授(現福山大学教授)でした。やり取りの重要なところはよく覚えているぐらい貴重な体験でした。
私はグローバル経営をベースに論文を書きましたので、発表後、まずは桑原先生から質問を受けました。先生からは先行研究のレビューが緻密であるという話から先行研究について質問され、最後に、グローバル経営をやると必ず出てくるHeenan & Perlmutterの「EPRG」理論について、「本当にこんな段階を経て発展すると言えるのか」という通説に対する自分の考えを答えるような凝ったキラーパスがでた。「おそらく段階を経て発展するというパールミュッターの考えよりも、取り扱う商品や外部環境、また進出国の状況などによって、コンティンジェントに選択されるのだと考えたほうが合理的であると考えています」と、なんとか答えて桑原先生の質問は終了した。
次に、坂下先生からおもむろに、「この論文は、単にに垂直統合と水平展開について書いただけではないのか」という強烈なボディーブローが飛んできた。そういう一面はあるのだが、「単にそうではなく、取引プロセスが市場で行われずに組織の中で取引が起こるメカニズムについて考察しました」といった応酬が何度かあり、極めつけが「それなら、このフレームワークはおかしくないか。矢印が明らかに逆だし、変数も問題がないか」という力石徹が矢吹丈から受けたテンプルへのパンチのような一撃が来た。因果関係がおかしい、つまり論文として疑問であるという痛烈な批判であった。フレームワークについては何度も検討して、仮説の構築でも何度も議論を重ねたが、やはり詰めが甘いところが出てしまった。「因果関係についてのご指摘ありがとうございます。フレームワークでの変数と因果の関係が整理されていません。今後の研究においては十二分に気をつけます。重ねてお礼申し上げます」というのがやっとであった。その後もフレームワークに関する指導を受けて審査会は終わった。
フラフラだった。「落ちたな」と一瞬は思った。周りに聞くと「うまく話していた」というので、ちょっと気を取り直して、自分の論文をもう一度読んでみると、確かにフレームワークがうまくフィットしていない。論文全体としての結論には問題はないと思ったが、こういう重大なところがきちんとできていないと論文にならないということを学んだ貴重な1日でした。審査会終了後、主査(指導教官)に意見をお伺いしたところ、「坂下先生の指摘はさすがですね」と言われてしまった。 いまでもこういう論文で相談を受けたり意見を求められる時は、フレームワークは単なる相関図ではなく、因果関係を説明するためのものなので、因果関係に関係のない要素を書かずに、変数間の関係に絞ってフレームワークを書くほうが説得力がある、と説明しています。それは当然のことながら数式でも表現できるはずでもある。これから論文を書かれる方は、田村正紀(2006)『リサーチ・デザイン:経営知識創造の基本技術』白桃書房を読まれて因果関係や変数といった概念をおさらいされればよいと思います。ほかにもこの手の本を読んでから取りかかられるとよいです(この辺は先生方が教えてくださいます)。
神戸MBAのよさは論文を執筆するプロセスとその集大成としての審査会です。執筆した論文を10分間でわかりやすく説明する能力は、社会人としての必須能力ではないでしょうか。社会人とはいえ、また専門職課程とはいえ、論文をきちんと書くプロセスから学ぶことが非常に多いと改めて感じています。自分で決めたテーマにそって説得力のある論文を書く過程で思考を深くしていくことが、実務では減っていますし、だからこそ、そういう機会を持って、思考能力を高めていくことに意義があると感じます。以前三品先生に尋ねられた時も「論文書かずして何もわからない。40中盤のサラリーマンなら実務を教えてもらうためではなく、もっと理論をしっかりと身につけたいと思っているはずで、そのためには論文執筆が効果的」と話した通りです。
今年のM2の皆様の論文合格をお祈りしております。
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